005 墓の中に魂の土産は要らねぇんだよ。 ただ腐っていくのを待つだけだ。 ツナの葬儀の全てが終了した。 まず、棺桶を見守っていた幹部のうち、雲雀が何も言わずにその場を離れ。 ランボが目を真っ赤にしながらおろおろとそれについて行き。 了平も、獄寺と山本の顔を見て踵を返す。 骸は暫くぴくりともしなかったが、ゆっくり瞬きをすると、いつの間にか去っていた。 ひっそりとした庭園の中に、ぴかぴかに磨き上げられた棺がある。 先程まで花に包まれて眠っていたその人は、もう顔を見ることも出来ない。 獄寺が棺の前に立ち、その斜め後ろに山本が立っていた。 辺りから花の香りが匂ってくる。ひらひらと目の端に白い影が映って、歪んだ視界には それらは雪に見えた。 ああそういえば、あの人は雪が好きだった。 ざっと一層強く風が吹く。木が揺さぶられ、花びらが散る。 神聖な道を彩るように、真っ白な羽根がまた降った。 黒いスーツに白い花びらが触れる。その色差に目が眩んで、瞼を下ろした。雫がすっと 零れる。 思わず目を開いた。慌てて指で目尻を拭うが、間に合わない。ぼろぼろと、次から次に、 雫が溢れた。 「え」 なんで。口に出そうとして、声が出ない。喉が震えている。焦って袖で目を覆う。隙間 を縫って、雫が垂れる。 なんで、こんな。 自分が情けなくなって、口元を手で覆った。覆う手も、覆われる顔も震えている。 「なんで」 言葉が歪んでいる。 後ろの方から、肩に何かが触れた。山本から差し出されたハンカチを奪い取って、目元 を覆う。 涙が溢れて止まらなかった。 「なんで」 今更、悲しくないと思っていたのに。どうしてだろう。 涙が止まらない。 ふらふらと世界が揺れる。気付いたときにはしゃがみ込んで、みっともなく地面に手を ついていた。指の下で花びらが潰れる。 「なんで」 悔しい。悲しい。苦しい。きつい。 哀しい。 「じゅうだいめ」 十代目十代目十代目。 言葉も涙も止まらなかった。山本もじっと目を閉じている。 空気が冷えたような気がした。ああ、雪が、降りそうな。 そういえば、楽しかったな。十年前に出会って、後悔したことは一度もなかった。 ご迷惑も沢山おかけしました。すみません、なんて、笑って謝る事なんて出来ない。 楽しかったよ。嬉しかったし、嬉しかった。自分が認められた、なんて、認めてくれた なんて。 すみませんでした。謝る言葉が、バリエーションがない。悔しい。日本語なら、もっと 色々語り尽くせたんだろうか。 悔しい。苦しい。哀しい。苦しい。 哀しい。 「じゅうだいめ」 涙が溢れて止まらない。雪も、止まない。 ひっそりとした庭園の中で、そこだけは、聖域のように輝いていた。 光って、鈍って。 やがて、消える。 「じゅうだいめ」 悔しい、なんて俺が言える台詞じゃないのに。 煙になって空に帰ることすら出来ない貴方を、見守ることも、今は出来ない。 貴方の故郷は、どこへ。 2007/03/12 本誌で十年後ツナが死んでいたので、とりあえず綱吉葬式書き殴り。獄寺は 部下がいるときはいつもと変わらなくて、本当に心を許した山本とかの前だと ぼろっと泣いちゃうタイプだと思います。他の幹部の前でも泣かないだろうな。 ツナが居なくなった悲しさを誰とも共有できない。