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(死ネタ注意) 007 しあわせすぎてせつなくなるのは いつかこわれるからですか ? 君の果てが目の前に見えた時。 それは薄暗がりの中だとどす黒い重油にしか見えなくて、自分が現実を疑うのも仕方が ない気がした。ただし大地に注がれる村雨と反発する事もなく混ざり合っているので、油 ではない。 前髪が額にべったりと張り付くのがとても鬱陶しい。それすらも払う気が起きないのは、 やはり彼のせいだろう。溶けた整髪料が目尻にとけ込んで口に流れ込んできた。苦い。 地面は灰褐色で、コンクリートのように見えた。濃淡の差が少なかったタイル地はやや 傾斜になっており、近くの排水溝まで黒い流れを誘う。 寒い。 皮膚に張り付くブラウスを感じて、身震いした。それを感じたのか、図々しくも自分の 太股に頭を乗せている彼が笑う。 「雲雀、もしかして寒い?」 「君は?」 「俺は別に」 「あ、そう」ならいいや。 両足はすでに痺れていた。成人男性の頭が案外負担をかけてきて、雨が打つのも拍車を かけて。いつの間にか彼の腹部を押さえていた手も力を失っており、今は緩く彼の衣服に 引っ掛かっているだけだ。指先が冷たくて切ない。 それは薄暗がりの中だとどす黒い重油にしか見えなくて、自分が現実を疑うのも仕方が ない気がした。 「山本」 「何?」 「寒い?」 「雲雀は?」 「僕は別に」 「あ、そう」なら別に。 もしかしたら、彼の体はすでに冷たさとか暑さとかそういうものを受け付ける余裕がな いのかも知れない。無責任にタイル地に投げ出された足は水たまりの中で転がっていて、 もう一度踏み出したいとでもいうかのように靴が雨を受けている。折角の革靴だったのに。 ああ、でもどうせ彼はこちらに来てもそんなものろくに履かなかったな。メイドインジ ャパンとかいう信用できないブランドのスニーカーをいつも履いていて、もしくはビーチ サンダルだ。雨が降ろうと気にもしない(さすがに雪が降ったら靴を履いていたけれど)。 人の部屋にもサンダルで入り込んで、僕の部屋が汚れるっていっても出て行かなくて、僕 はどうしようもない想いを鬱陶しく思いながら彼を甘受していた。 そういえばああ、あの時は何故か切なかったなあ。 幸せであればあるほど、心が悲しんでいく気がしたよ。何故だったのかは、今更理解し たけれど。 「雲雀」 「何」 「キスして」おやすみの。 彼が少しだけそう笑うから、体を屈めて。無理な体勢だったけれど、今更背骨が悲鳴を 上げようと、どうでも良かった。 ひゅ、と息を吹き込んで、ふっと息を奪う。 「サンキュ」その一連の動作をすると、自分が魂を吸い取ったかのように彼の心臓が止ま った。 瞼は薄く持ち上がっていた。容赦なく眼球に注がれる村雨を甘受している。僕と同じよ うに。 彼の口の中があまりにも鉄臭くて、ああ、でももしかしたらこれは彼の魂の味だろうか。 悪くない。唇の端を舐める。でももしかしたらこれは自分の整髪料の味かもな。最悪だ。 それは薄暗がりの中だとどす黒い重油にしか見えなくて、自分が現実を疑うのも仕方が ない気がした。ただし大地に注がれる村雨と反発する事もなく混ざり合っているので、油 ではない。 彼の腹部に深々と誰かのナイフが刺さっていて、そこから重油が溢れ、そしてその誰か を僕が殺したのが最後の現実だ。 (あのひはしあわせだったね) 2007/02/01 そろそろ普通のハッピーエンドを書けるようになった方が良いと思う。理想 的山ヒバ最後。山本は雲雀より早く死ぬ。絶対。