008 宙の果てまでゆける変則的恋愛速度。



 どちらかというとそれは加速していくばかりで。


「ヒーバーリ。帰らねぇの?」
 空の色合いは、夕陽が姿を消したばかりで夜の支配が及びきっていない。群青か、藍か、
ませた詩人なら海と呼ぶだろうか。
 コンビニから出てきて何をするでもなく一点を見つめ立ち尽くしていた雲雀だが、やが
て見ていたそれに歩み寄った。
「え」
 思わず山本は狼狽える。しかし、雲雀の指は迷わなかった。
 缶ジュースが二個は買えるであろう金額をそれに投入し、適当にボタンを押す。
 出てきたそれを手にとってまじまじと眺めると、パッケージを開き、中から数本抜き出
して山本に生身のまま押しつけた。
「うわっ」
「あげる」
「いや俺スポーツマン……っていうか、え、雲雀吸うんだ?」
「僕は吸わないよ」
 とか何とか言いながら、雲雀はまだ中身の入った箱を山本の鞄に突っ込む。雲雀はバッ
グの類を持ち歩かない為、自分のものは全て山本に押しつける習性とも言える癖があった。
 何とも言えない表情を浮かべた山本も、手の中でバラバラとしているそれを、適当に放
り込む。家に帰って親父に見つかったら怒鳴られそうだな、と少し考えた。
「なんというか、堂々してるな俺たち」
 コンビニの灯が局部的に白昼の明るさを醸し出している。山本が言うと、雲雀は顎でコ
ンビニを示した。ん、と山本が見ると、先ほどまで雑誌棚に向かい合っていた学生は既に
菓子の方に興味を移しており、無責任な店員はスタッフスペースに入り浸っているのか姿
が見えない。
 タイミング計ってたのな、その用意周到さに更に山本は何も言えなくなる。
「これ、一応犯罪だよな」
「多分ね」
「あー、俺が持ってるってことは誰かにばれたら俺が最初に怒られんの?」
「君は少々気にしないだろ」
「まあね」
 じゃ、帰ろーぜ、と山本が笑う。雲雀は一瞬思案の間を置き、何も言わずにさっさと歩
き出した。山本がいつものように、その背中を追う。
 普段と同じ態度でも、意外と罪悪感が尾を引いていたらしい。店まである程度離れたと
ころで漸く、山本はそれを聞くことが出来た。
「ところで雲雀」
「何」
「何で突然法律違反なんか?」
 前方を歩く雲雀に声を投げると、雲雀がぴたりと立ち止まった。山本も合わせて立ち止
まる。
「……さあ」
 なんでだろうね、と雲雀は山本に背中を見せたまま言った。
 その無責任さに、思わず山本が笑う。

「あ、でも雲雀、俺ライター持ってない」
「火はあるよ」
「あんの?」
「色々必要だからね。火は」
「火は、って。もしかして煙草買ったのもそういう系の」
「さあね」
(怖ー……)





2007/09/23 ノット山ヒバ。と主張する。
      きっと山本は雲雀と仲が良いから! コレはお友達だから! たとえ山本が
     帰りに雲雀の家に寄るのが当たり前になってても、お友達だから!(主張/お
     前お題をよく見てみろ)
      テーマは「思わずやってしまう誤った青春」。
      もうちょっとみんな悪いことにあこがれても良いと思う(マフィアですけど)。