おれは強くならなくちゃ。 009 君まで、辿り着いてやる。 「ほらよ」 「ん」 ぺたり。スクアーロの細いけれどしっかりとした指によって、絆創膏が当てられる。鏡 を覗き込んで、ディーノは眉根を寄せた。絆創膏の回りに奇妙に皺が寄る。 「いやだな、額は目立つのに。どうやってみんなに言い訳しよう」 「だったら、そんな傷作らないように生きろっての。何でそんな器用に行動できるんだ?」 解せねぇ。言いながらスクアーロは開け放たれた窓の枠に腰掛けた。風は案外爽やかで、 しかしもうすぐ夏が来る。夏になると、また、あの日差しを浴びるのだ。そう考えると少 しだけうんざりするような気持ちになった。 他の生徒は授業中で、本来ならば自分たちも出席しなければならないのだけれど、それ でも自分たちは、こうして男子便所に閉じこもっていた。居心地が良いとは、お世辞にも 言えない。 「あー、空が青いや」 何となく言うと、「当たり前だろ」とすかさず言われた。さっきからスクアーロはじっ と空を睨み付けている。さっとペンキを均一に塗っていたような気持ちのいい青色で、塗 り残したむらのように時々雲があった。 「日本の気候はさ」 「あ?」 「イタリアと似てるんだって」 「ほぉ。良くそんな面倒臭い事知ってんな」 「日本の事だけは勉強してるんだ」いつか行ってみたいから。 それきり、両方が口をつぐんだ。 風が撫でる沈黙。開け放した窓は、次々と風を呼び込む。 目を閉じて風を受けていると、「おい」とスクアーロに声をかけられた。 「何?」個室の扉に背を預け、汚い床に座り込んだまま、答える。 「お前、マフィアになるのかぁ?」スクアーロはじっと空を見たままだったので、一瞬空 に問いかけているのではないかと思った。 言われて、困ったように目尻を下げ、顎を掻く。 「分からない」 「分からないって、何だよ」 「おれ、マフィアにはなりたくないんだ」 「だろうなぁ」言うと思ったぜ。 そんなスクアーロの声はどことなくやわらかくて、それでも呆れを含んていて。居心地 が悪くなって、じっと自分のつま先を見る。癖のように転けるせいか、安くはない革の靴 は、ぼろぼろだった。 「スクアーロは」 「あ?」 「なりたいの?」マフィアに。 問いかけられて、じっと空を睨んでいたスクアーロが、目だけを動かしてディーノを見 た。それだけですくむ人間もいるのに、何故か、ディーノに目での言葉は通じない。 浅く息をついて、「そうだな」。適当に切った髪を撫でる。視界の端で空が青い。 「マフィアには、興味はねぇ」 「無いんだ?」 「まあな。ただ」 「ただ?」 「後は秘密だ」 「え、なんで」 「想像しろ」 「駄目だよおれ、想像力の無さには自信があるもん」 「『もん』じゃねぇよ。想像しろへなちょこ」 「ていうか、想像して良いの?」 「駄目だ」 「結局駄目じゃん!」 くつくつとスクアーロが笑って、ディーノが拗ねるように唇を尖らせた。 「ていうかさ、なんでおれ達は、トイレで将来を語り合ってるんだろ?」 「お前のせいだろ」 このへなちょこ。逃げるんだったら、立てこもるんじゃなくて広いところに行けよ。 空が青い。 07/02/12 取り留めなさすぎ。きっとディーノは持ち前のへなちょこでスクアーロをトラ ブルに巻き込んで、それ以来何かとスクアーロに世話やかれてると良いよ。良い お兄ちゃんだよ。萌。 ちなみにこのときはディーノが追いかけられていて、それを見かねたスクアー ロが「こっちだ」とか言うんだけど、やっぱりディーノがスクアーロを巻き込ん ですっころんで、目の前にいい具合にあった男子トイレに飛び込んで、そのまま 立てこもってるんだ。授業も始まっちゃって追いかけてくる面子もいないんだけ ど、なかなか出れずに結局二人でさぼってるんだ。 それを作中で表現しようぜ、自分。あとタイトルとの関連性が無くなっちゃっ たよ!