011 愛とコンプレックスは、共存しない。  _か?



 そもそも、貴方とは コンプレックスの_



 スクアーロは黙ってバジルを見下ろしていた。
 目の前のこの青年は血まみれ(というか血溜まりの中に倒れ込んでいて)で、ろくな呼
吸をしていない事は確認しなくとも分かる。誰にここまでしろと頼まれたんだと一瞬思い
が頭の中によぎったが、そういえば頼まれなくとも一々命を賭けるのがこいつだったな、
と思う。おかげでそのとばっちりが自分の元に訪れた。コンクリートにこびりついた血は
乾き始めている。
 数時間前、異変を察知したボンゴレ十代目からバジルを迎えに行けとの指令が出た。お
い何故俺がなどといえば、早くしろバジルが危ないかも知れないだと人の話を全く聞きも
しない。愚痴を並べ立てながら窓を開け放って飛び降りて言われた場所に向かって、そう
したらバジルが落ちていた。
 息は、している。
 ただスクアーロは黙って見下ろしていた。
 バジルは、廃墟と化した施設の出入り口で倒れていた。自分が行動するときはいつもこ
うだ、とスクアーロは暗雲がぎゅうぎゅうに詰め込まれた空を睨む。

 そういえばこいつと最近初めて言葉を交わしたのも、こんな天気の時だった。
 変な奴だった、と思う。ばったり出くわして暫くありったけの殺気を放っていたのに、
段々それもしぼんでいって、最後はスクアーロの声に驚いているような様子さえあった。
 次に出会ったのは、どこだっただろうか。確かどこかの雑貨屋から出てきたところを見
た。雨が降りだしたのを見て暫く溜息をついていたが、やがて何かに気付いたかのように
路地裏に姿を消した。なんだ、と気になって追ってみれば、角から現れたバジルは上着の
内側に捨てられていた子猫を抱きかかえていた。またまたばったりと鉢合わせ、向こうも
かなり驚いていたようだがこちらも動揺し、しかし、なんだその猫は、と声をかけたおか
げで、流れで共に本部まで帰ることになった。
 まだ、それだけだ。
 ただ、その時の会話の内容だとか、そんな事をぶつぶつとルッスーリアに言っていると
(何故か奴は退屈になると必ず誰かの部屋にいる。それも、新鮮な話題を持っていそうな)、
いつの間にかそれが他人に流れて、ボンゴレ十代目まで伝わった。

 そして、これだ。
「俺は動物を拾う趣味はないぞぉ」
 言い訳のように呟く。このまま、バジルを拾って帰らなければ、ボンゴレに何を言われ
るかは分かったことではない。しかし、このままつれて帰っては、他人の言いなりになっ
ているようで、何だか癪だった。
 何か言い訳はないか。頭の中で考えを巡らせているうちに、雲が濃くなり、やがて村雨
が訪れる。
 地面を焦らすように濡らし始めた雨に短く舌打ちを打った。そのままバジルを見て、空
を見て、眉間の皺を深くする。
「お前、いつまで寝てるつもりだ」
 もういい、言い訳なんて面倒臭い。
 言って、バジルの横にしゃがみ込み、その体を抱え上げた。乾いた音がして、何かと思
えば、彼の武器が地面に落ちている。少し考えて、それも指先で拾った。
 手に血がべっとりと張り付く。腕を伝って袖の中に侵入し、肘まで流れる。
 気色悪い。
「お前のせいだぞ」
 拾い物をして、嫌な気になったことは、いくらでもあった。だから今後一切拾い物はし
ない、と誓ったのが、アカデミーに通っていた時だ。それからは後悔するのがいやで、何
も拾わなかった。
 ではこれは、後悔に繋がるのだろうか。
(知らねぇ)
 これは他人の言いなりか?
 違う、指令だ。
 頭の中で割り切って、雨の中を歩み出す。目立つのが嫌だったので背負う形にバジルを
抱え直し、その頭にパーカーのフードをかぶせた。
 軽い。
 一瞬思って、頭を振る。ちらりと空を見上げれば、雨足はゆるゆると強くなっていた。
 しかたねぇ。
 思って、すっと路地裏に姿を消す。
 恐らくスクアーロ本人は、バジルでなければ出動もしなかっただろう、とは、気付いて
いない。





2007/03/04 スクバジスク? そろそろスクバジで良くないですか自分。
      オチがゆるいー。難しいなぁ。
      スクアーロが捨てられた猫やら犬やらをほっておけない性格だといいなぁ。
     いつも家に持ち帰って「そういやどうしよう」とか思って、学生のころは結局
     ディーノに渡すのです。ディーノも「またかよー」とかいいながら、へらへら
     と可愛がったり。大人になってからは奇妙な勘が生まれて、捨てられてそうな
     路地裏には近づきません。任務以外。任務でも通りかかったら思わず目と目が
     合っちゃって、そのままコートの下につっこんで帰ってきて、ベルとかに遊ば
     れてれば良いと思う。動物に愛される鮫、スクアーロ(まんまや)。
      本気でお題に沿わない。修行してきます。