一部暴力?描写があります



021 きれいなことばも忘れたくちびる。



 なあ、それって、なんだっけ?


「あは、あはははは!」
 その少年は気付いていた。
 自らが最も恍惚を感じるのは、その瞬間。
 歪んだ視界で、嘔吐感が押し寄せる。指先が痺れていく。痛みが消える。体が他人のも
のになっていく感覚。
 ふらふらと白い空に持ち上げた手だけは、そのままで。
「骸様」
 悲しそうな声が自分の上から振ってくる。現実に引き戻される。眉根を寄せた。
「なんですか、千種」
「もう、許してください」
「何がです?」
 「もう、もう、俺は」その声が裏返るほどに震えていて、また骸の喉から笑いが零れる。
「気にしなくて良いんです。さあ、続けて」
「もう無理です」
「千種」
「許してください!」
 語尾は完全に懇願の響きになっていた。見れば、彼の眼鏡にも、頬にも(自分の頬にも)、
彼の涙腺から流れ出た水滴が付着している。
 彼の手は日頃からは考えられないほどに震えている。それが嬉しくて、骸はその手首を
掴んだ。彼がまたびくりと震える。
「骸様」
「千種」
「骸様」
「許しません」
 彼の目が見開かれる。骸は穏やかに微笑んだ。
「僕は君を許しません。僕が死んでも、君が死んでも、また僕が死んでも、たとえ君が生
き返ったとしても」
「骸様」
 完全に彼の手から力が抜けた。仰向けに寝転がっている自分の上に、殆ど重なるように
して雪崩れ落ちる。俯せて、骸の胸に額を押しつけている。嗚咽は止まない、きっと泣い
ている。
 これは最も酷な刑罰だ。骸はそれを知っている。
 だけど、それでも。
「千種、僕が望んでいるんです。君は僕を裏切るつもりか」
 また、彼が震えるのを感じた。震える両手が、骸の首に絡まっていた手の平が、指が、
また力を取り戻す。
 千種は体を起こした。また骸の上に馬乗りになって、泣きながら自分の両手に体重をか
けていく。骸はその手首をずっと掴んでいた。
 また頭の端が殴られているような痛みが帰ってくる。白い空が舞い戻る。笑った。

「(君は僕に最も優しい、)」

 愛しい君よ。





2007/09/16 うちの骸様はデフォルトで狂ってるみたいです。
      何となく千種出してみたら、かなり、来たコレ。うわコレ。千種可愛いよ千
     種。