032 僕の窮屈な胸に詰め込んでいる真実



 教えない。君にも絶対。


 恭弥は美人だ。睫毛は長くて、鼻も高い。しかも無駄に高くなくて、すっと筋が通って
いて、整っている。肌は白いし、目はもうなんて言うか凄く黒い。宝石じゃないけど、宝
石なんかよりよほど価値がある。顎も尖ってるし、唇は、なんて言うか、少し色素が少な
い。けれど逆にそれが、全体を見てもっとも美しくなるような配色だった。
 手も綺麗だ。白くて、手首は細いし、指は長い。全体的にバランスが良い。あんなに荒
々しく生きているというのに、爪も整っている。磨いたような人工的な美は無い、ただ、
霧のように細やかな曇りを纏った爪が、自然の名残をさせるままに美しい。
 腰も細い。足も長い。この辺りは詳しく言ったら変態と思われてしまうだろうから、あ
えて列挙はしない(しなくとも恭弥の価値は見るだけで分かる程だ)。
 それから?

「何」
 きつい眼差しで見られて「ん?」と目を丸くする。
「さっきから、じろじろじろじろ。気分が悪いんだけど」
 そんな事言って、恭弥も俺の観察するくせに。苦笑してから、言い訳のように手を振る。
「いや、ちょっと考え事」
「へぇ」
 そう言ってまた、黒塗りの箸を優雅に操る恭弥をじっと見る。
 箸の動かし方も綺麗だ。一切無駄がないし、何より外国人(この場合は日本人だが)と
しての品がある。
 美しい。綺麗だ。
 どんな言葉を持っても恭弥は表現できない気がする。
 けれど。
「だから、何」
 また言われた。「へ?」
「だから、さっきからじろじろじろじろ。君、食べないの」
「あ、恭弥食べる?」
「要らないよ」
「まーまー」
 違うのだ。自分が恭弥に求めるものと、恭弥自身の輝きは。もっと、理想とする、色が。
 それでも、ひとつだけそれを言えない理由がある。
(俺は恭弥の何を理解してるって言うんだ)
 外見に関して言うなら、例え表現できなくても、いくらでも愛の言葉を使えるだろう。
 けれど自分の心には、他人の心を覗き込める窓がない。
 君の真理は覗けない。
 その君の心を覗き込んで、君をかき乱し、君を僕の色に染め上げることが出来たらどん
なにか、と。
 独占欲ではないけれど、恭弥の口に昆布巻きを食べさせてやりながら、その確かな感情
に奥底で気付いていた。




2007/03/13 ダークディノ。久々にお題に従った方ではないかと思っています。久々って、
     前はいつだよ。
      絶対 ディーノは 鬼畜 似合う ! (変態!)
      けれど鬼畜に踏み切る勇気はありませんこのティキン!