※微妙に数年後。


038 自分の中にあるモノの分別もつかないの。



 じゃあ、これは、何だろう。この想いは。

 意外と雨はさっさと止んでしまった。片足だけをこの街に引っかけて、それもとっとと
払って、足早に雨音が遠ざかる。
 廃墟のコンクリートは湿っており、どこから染み込んでくるのか、床はひたひたと水に
浸かっている。バジルは瓦礫に腰掛け、スクアーロは壊れた窓から外を眺めている。空の
色は彼の髪よりも少しだけ暗い色をしていた。
「……止みましたね」
「……そうだな」
 会話という会話も思いつかずに沈黙を保っていたのが正解だったと、バジルは胸中頷い
た。下手に口を滑らせて、また刃を交えるような事はしたくない。今は彼は敵ではないし、
自分も戦闘体勢に入る理由がなかった。
 しかし何故、ここで彼と出会ってしまったのか。雨が降り出したので何となく屋根とな
りそうな廃墟に潜り込んだら、姿を見る事さえ数年ぶりの彼が居た。入ってきた時に、ま
ず、睨まれる。睨み返す。それも、時間が経って馬鹿馬鹿しくなり、ただ、共に雨音を聞
く。
 元々が険悪な仲な為、いつ崩れるかも分からない均衡を保っていたのが、雨音だった。
 壁にもたれていたスクアーロのブーツが動く。とっさに目で行動を追ってしまった。し
かし彼は武器に手を伸ばす様子はなく、ただバジルの前を素通りする。ブーツが水を揺ら
し、波紋がバジルの足下まで寄せた。
「帰るなら、今の内に出た方が良いぞぉ。この空気はまたすぐ降り出す」
 コンクリートに凛と響いた。その音がスクアーロの声と気づき、波紋に目をやっていた
バジルは慌ててスクアーロを見る。スクアーロはバジルを見ずにまた窓の方へ目をやって
いたが、バジルの視線を感じると、一瞬だけ視線を合わせ、顎をしゃくって窓を示した。
流されるようにバジルが窓を見ると、割れ残ったガラスの隙間から、暗雲が覗く。
「降る、でしょうか」
「用心に越した事はねぇ」
「ありがとうございます」
「礼を言われる覚えも、ねぇ」
 スクアーロが踵を返す。また波が生まれた。
 その背中を見送るバジルを、歩みを止めずに一瞬だけスクアーロは見た。
「てめぇにゃ借りがあったからなぁ」
 てめぇなんかにはそれで十分だ、それだけ言うとスクアーロは今し方去っていった雨音
のようにさっさと姿を消した。
 耳に波音の余韻が残り、なかなかとぎれない。気付いた時にはそれが雨音になって、外
を見ると再び雨が降り出していた。

 Lui e un uomo come pioggia.(まるで雨のような男。)

 呟く。



07/02/08 スクバジスク十年後設定。そういえばバジル君は一体どこのファミリーなんだ
    ろうと思いながら。
     この二人は延々と超(心が)遠距離恋愛してればいいよ。ふとした瞬間に思い
    だして何か変な気分になってたら良いよ。
     なんか恋仲が成立する前に同棲始めそうだなこの二人の場合。