043 どこから道をかえたら、そのままずっと進んでいけるんだろう。



 君との分かれ道がほしい。

 少し迷ったようにスニーカーを進めて、もう一度だけ君は僕を振り返った。
「じゃあ、俺、行くから」
 ごく自然に(見えるように)頷く。
「うん」
「雲雀、」
 曖昧に開いたその口を結局そのまま動かせずに、適当な笑いで誤魔化して、君はまた背
中を向けた。
 無意識に手が伸びる。
 ただ、伸ばした先で理性が働いて、君の背中を捕まえる前に、強く手を握りしめた。
 元々正しい恋じゃなかった。(これを恋というのかどうかも知らなかったけれど)
 そもそも僕たちは男同士で、世界がどういうかは知らないけれど、日本の(並盛の)定
義で言えば、十分な異端だった。そう、だから今のこの僕の行いは間違っていないはずだ。
 間違っていない、はずだ。
「山本、」
 呼んではいけない、自分の中の何かがせっかく忠告をしたのに、それすら蹴飛ばして僕
は声を投げる。
 君がゆっくりと振り返る。何? と寂しそうな顔は、やがてゆっくりと笑った。
 彼が足の向きを変えて、二人は完全に向かい合う。ただ、彼は僕の顔をじっと見ていた
けれど、僕は彼の顔を見ることは出来なかった。ただ、冬の寒気に凍えるような、冷たい
アスファルトを見つめていた。
「山本、武」
「うん」
「君は」
「うん」
 言葉が続かなかった。山本が寂しそうに笑う。
「泣かないで」
 泣いてない。
 声には出せなかった。
「泣かないで、雲雀。この距離じゃあ」
 そのままの位置から、彼はすっと片手を伸ばした。見ているこちらが苦しくなるような
表情で、笑う。
「顔、触れないから」
 泣いてない。

 じゃあ駆けてきて、抱きしめて、慰めて。
 僕を慰めてみればいいじゃない!

 叫ばなかった。
 それだけは自分に約束したから。
「山本武きみは、」
「うん」
「後悔した?」
 不意打ちを食らったように、彼が目を見張る。
 寒気が先ほどから頬に寂しい。頬が凍る。
 山本は、また、悲しく笑った。
「うん」
「何、で」
「だって」
 山本は、動かない。僕に近づこうともせず、僕から離れようともしなかった。
「この時間が、待ってたから」
 背中を見せてあと三歩歩み出せば、きっと割り切れるだろう。
 割り切れるだろうのに。

 アスファルトが冷たい。
 誰かが呟いた。

「切ない、ね」

 うん。
 切ない。







2007/02/26 山ヒバ別れ編。そして再会編に続きます(ぇー)。
      お互いがお互いのために別れるのが理想、です。きっと山本は自分でも意識
     しない程度の好意を持つ女の子がうっかり出来ちゃって、山本より遙かに鋭い
     雲雀がそれに感づくのです。で、自分からなにもいわずに別れようと切り出し
     て、山本はもちろん狼狽えるんだけど、でも雲雀が一番で雲雀が大好きだから、
     雲雀が言うなら別れちゃう、って感じ。うーん、見事に意志疎通が出来てない
     カップル。
      しかし数年後再会してまたお互いに惚れ合ったらいいなあ。やっぱり山ヒバ
     好きです。これ意外と糖度高いような。