Happy Birthday Kyoya Hibari!



「祝って」
 椅子に座る雲雀は、些か機嫌が悪そうだった。ん? なんて思いながら、「ほいっ」と
手に持っていた風呂敷包みの重箱を事務用デスクの上に置く。
「何これ?」
「寿司! 親父がおめでとうってさ」
「いらない」
 一言吐き捨てて雲雀は目線を逸らした。
 ん?
「ヒバリ?」
「何」
「機嫌悪いのか?」
「さあね。というかそう言うこと真っ正面から聞くのやめてくれない。虫酸が走る」
 これは。
 山本はいつもの笑みを顔に貼り付けたまま、ツナも驚くであろう程に鋭く直感した。こ
れは、危ない。
 いつも雲雀は唐突に怒る。前触れもなくトンファーを振るい、こちらが意識を取り戻し
た時にはすでに機嫌は直っている。そのため山本は、いつも雲雀の不機嫌の原因を知らな
いでいた(そのために何度も同じことを繰り返すのだ)。しかし、今日は違う。この雲雀
の饒舌さは、嵐の前の静けさにも似ていた。
 何が悪かった、と山本が考え始めた時に、雲雀は席を立った。え、ちょっと待って、と
口から飛び出しそうになるが、慌てて山本は押さえる。雲雀は近くの書棚に向かい、風紀
委員の記録を書きとどめたファイルを物色し始めた。
 何もできずに山本は立ち尽くし、呆然としながら自分が持ってきた重箱を眺める。綺麗
な淡い紫の風呂敷に包まれたそれは、山本が頼み込んだのもあって、自分の父が特別に腕
を振るったものだった。
 そして。
「ヒバリー」
「何」
「いらねぇの?」
「くどい」
 一言で切り捨てられ、さすがにショック感が襲う。いつものことだが、今日のは特別に
強烈だ。がっくりと肩を落としうなだれた山本を一瞬目の端で捕らえて、またファイルを
眺めつつ、雲雀が言う。
「用がそれだけなら、帰ってくれない。僕は暇じゃないんだ。見れば分かるだろ」
「だよな」
 山本の苦笑。暫く放っておいたが、違和感に雲雀は山本を見た。いつもはこんなに諦め
はよくないのに。しかも、今日なら特別、と思っていたのだが。
「何、今日は聞き分け良いんだね」
「まーな。ヒバリの誕生日だし、ヒバリの言うこと聞いても罰当たらないよな」
「よく分かってるじゃないか」
 別に毎日聞いてくれても良いんだけどね。また雲雀はファイルに目を戻す。
 しゃーねーな、山本が頭を掻いた。
「家帰って食うか……せっかく頑張ったんだけどなー」

 ばん!

 突然の音に、山本はいつも以上に過敏に反応した。反射的に雲雀を見る。雲雀本人はと
いえば、勢いよく閉じたファイルを両手で挟んだ姿勢のままだった。暫くそのまま硬直し
ていたが、いつものように優雅な動作でファイルを棚に戻す。
 なんだったんだ、と思いながらも退散しようと重箱を抱えた山本に、鋭い雲雀の声が飛
ぶ。
「頑張ったって何が」
「へ?」
「頑張ったって、何が?」
 気の抜けた声を漏らした山本に再度、聞き取れるようにと真っ正面から山本を見つめて
雲雀が問う。「あ、いや」何となくいたたまれない山本は、慌てて返した。
「一応俺も巻き寿司作ってみたんだけど……まあ、ヒバリが食べないなら」
「食べる」
「しょうがないかー……って、ヒバリ?」
 すたすたと背筋を伸ばして雲雀はデスクに歩み寄り、流れるように椅子に座る。重箱を
睨み付けたまま、山本に右手を差し出した。
「へ?」
「箸」
「あ、箸」
 山本は慌てて風呂敷をほどき、塗り箸を雲雀に手渡す。きびきびとした動作で雲雀は合
掌すると、重箱を開け寿司を物色し始めた。
(……もしかして)
 自分の誕生日にまで父親の寿司を持ってきたのが気にくわなかったのだろうか、と山本
は思う。
 そこまで思い当たって、思わず山本は笑った。
「何?」
 突然吹き出した山本を、口にサーモンを運びかけていた雲雀が睨む。
「ああ、いや、巻き寿司なら一段目だぜ」
「そう」
 適当に返事をして、雲雀が寿司を口の中に運んだ。メインディッシュは最後に食べるの
か、心の中で山本は呟いた。





2007/05/05 雲雀誕生日おめでとう。
      だーかーらいい加減甘いって!(ぉ)
      雲雀は絶対好きなものは最後に食べる派だとおもう。