074 ちょっとひとやすみ、おやすみ。



 膝貸して。

「スクアーロ。髪を切らないなら手入れを怠らないようにと何度言ったら分かるのですか」
「怠った覚えはねぇぞ」
「そもそも丁寧にやっていないから?」
 ソファに寝転がってだらだらとテレビを見ていたスクアーロは、いかにも不機嫌そうに
(更に面倒臭そうに)適当な返事を返す。ソファに近いテーブルには日本で大量購入した
のであろうビールの缶がいくつか開いていて、これがヴァリアーが誇る剣士なのかと一瞬
バジルは疑いたくなった。
 ソファは二人がけの高級なもので、肘置きのひとつにスクアーロは頭を預けていた。そ
こから零れた髪の一房をバジルは手に取ると、床に座り込んだまま、じっと見つめた。
 スクアーロの髪も自分の髪も男性にしてはやや柔らかくて、少し乱暴にすればすぐにそ
れが髪に出る。それでもバジルが髪を伸ばしているのは自分がこの髪を少なからず気に入
っているからで、そしてスクアーロが伸ばしているのは、過去の誓いの為だった。今更、
とも思うが、彼は彼でこの髪型に馴染んでしまったらしく、そろそろ切らないかと提案さ
れては、いつも顔をしかめて見せた。
「いくら約束の証しと言っても、こんなに適当に伸ばすのはよくありません」
「あ゛ー、ほっとけ」
「なりません。白髪でしかもぼさぼさなんて、端から見たら救いようがありませんよ」
 それを耳にしたスクアーロが、テレビの画面を眺めながら一瞬だけ反応した。しかし、
すぐ適当に身じろぎをして誤魔化す。
 溜息をついて、バジルはテーブルに置いてある銀の鋏に手を伸ばした。
「毛先の処理だけは、しておきますから」
「おー」
 だらだらとするスクアーロに再び溜息をつきつつ、ソファの下に紙をしく。なるべくそ
の上にスクアーロの髪の毛をかざし、そっと刃をあてた。
 ざく、と音がして、糸くずのような毛先がふわふわと紙の上に落ちる。
 髪を任せている間、スクアーロはテレビを眺めながらも、じっとして動かなかった。
 バジルも、何も言わずにただ黙々と刃を動かしていた。
 暫く部屋に満ちるのは、対して面白くもなさそうなバラエティー番組のやりとりだけで
ある。
 あとそれから、髪の毛の散る音。
 ざくざくざく。
 基本的に、スクアーロは室内にいるとき、部屋の照明を付けない。夜もバジルが部屋に
やってくるまで暗闇の中で過ごしていて、照明を付ける必要が無いほどには夜目を鍛えて
いたが、いつも一人で味気ない暗闇を味わっていた。
 部屋には格子が施された窓がひとつだけあり、そこから外がのぞける。空は雲に覆われ
ており、それでも採光は十分に注がれる。
 バジルが膝で立って毛先を切りそろえている間、白く頼りない光が、静かに影を描いて
いた。

「スクアーロ、終わりましたよ?」
 紙に落ちた髪の毛を纏めながら、バジルがじっと静かだったスクアーロの顔を覗き込む。
 案の定というか、スクアーロは瞼を落として、規則的な呼吸を繰り返していた。雲が濁
したやわらかい光が、少しだけスクアーロの前髪を浮かび上がらせる。
 それを見つめて、バジルはそっと顔に笑みを刻んだ。静かに立ち上がると、紙をテーブ
ルの上に置いて、ソファの前に座り込む。
 そのままスクアーロの顔を瞼の裏に焼き付けて、目を閉じた。







2007/02/20 日常が好きというか、オチが生まれ無いというか。スクバジスクは日常的な
     やりとりが大好物です。にしてもできあがるまで凄い時間かかったな。
      本当はアパートパロだったはずが、リビングでごろごろしながらビールを飲
     みつつバラエティーを見てにやにやしてるスクアーロが気持ち悪いくらいしっ
     くりきたので、止めました。
      適当な文章ですみません。本気でお題に従う気が無いらしい自分。