※自分だけが楽しい留学パロ



085 君を生きる頼りにしている、僕を重苦しいと思う?



 今すぐ言って。飛んでみせるから。

「ごはんが食べたい」
 唐突に言われ、もちろん眉根が寄る。
「は」
「ごはんが食べたい。米が食べたい米が。白飯」
「なんで」
「日本人といえば和食だろー」
 休日となればソファでだらだらと寝ている人物が、珍しく活動的に髭を剃っているのを
見た。いっそ剃刀でも引っかけてしまえばいい、思いながら、洗面台横の洗濯機に衣類を
突っ込む。
「勝手に住み着いたくせに、文句言わないでくれる」
「いや、文句じゃなくてさ。希望だって。あいてっ」
 彼の悲鳴は鋭利な刃物故ではなく、自分に脛を蹴られたからであった。暫くたたらを踏
み、容赦ねーのとだらしく笑う。
「パンも良いけど、米が食べたい。ライス!」
「しつこいよ」
「あとは味噌汁があれば完璧だよなぁ。ついでに魚でも焼くか」
「僕の話を聞いてくれる」
 第一、和食なんて面倒臭いじゃないか。一言で切り捨てた。
 異国の地に留学している肩身も財産も無い学生が、飯などにけちを付けたり我が儘を重
ねるのは、酔狂を越えて他人の迷惑だ。特に、一人暮らしで無いときは。
 米をまとめ買いしてちまちまと炊くよりは、必要なときにパンを焼いて食べる方が、手
軽だし金もかからない。アレンジも効く。
「というか君、そんなに作って入るの」
「んー、今日は久々に腹減ってる」
 無責任に水を跳ねさせながら、顔を洗う。あげた顔面にタオルを叩きつけてやりながら、
「へえ、珍しいじゃないか」と返す。
「うん。俺もびっくり。というわけで和食食いたい」
「自分一人の金で作るならね」
「ひっど」
 山本は引きつった笑顔でごしごしと顔を拭った。そのタオルを奪い取って、洗濯槽へ放
り込む。
「味噌って、スーパーに置いてるもんなのか」
「知らない」
「しゃーない、買いに行くか。な、雲雀」
「そこでどうして僕の名前が挙がるの」
「けちくさいこと言うなよ。一緒に行こうぜ」
「けちくさいのは君だよ。君一人で金を出しなよ」
 連れて行くついでに何かしら僕の財布を借りるつもりだと、魂胆は見えている。突っぱ
ねると、洗濯槽の中に洗剤を落とした。




2007/03/22 パロディは良いですよね。
      ケータイでキー慣れ用にちまちま書いているのの番外編です。へたれ山本と
     几帳面雲雀の話。