※十年後



091 君の幸せを願うことの、出来ない僕を赦して。



 だってほらああここはどこ。



 親父が死んだ。
 ツナも、いない。
 ちょっと仲良かったロンシャンもいなくなった。
 ハルは、大丈夫なんだろうか。無事なのかな。
 獄寺は、まだ確かツナの部屋にいる。
 笹川さん。どうしてるんだろ。無事なのかな。

 ああ。

 あと、誰がいたっけ。

 フローリングの床が背中に当たる。冷たさが切ない。
 寝転がって白い天井を見つめた。汚れが全くないのは、自分がこの部屋を居住スペース
として利用していない証拠だ。
 目を閉じる。

 親父、が、死んだ。

 どんな切っ先を突きつけられてもひるまなかった親父が、昨日まで笑って寿司を握って
いた親父が。

 死んだ。


「……はは、」


 肉親が持つ子供における絶対的存在権利を感じた。
 最近は、会うことすら少なくなっていた。仕事が忙しかった。手に血豆が出来る頃に時
々店に顔を覗かせては、「遅かったじゃねえか」と笑いながらも小突かれた。皮の剥けた
手の平も、緩い拳に和んだ。馴染まない固い柄も、重く左肩にのしかかる刀も、俺にかか
るすべての重みを、半分だけあの存在が支えてくれていたような気がした。
 今は、それが重い。

 床に転がしている刀を枕にするように横になった。体勢が安定しなくて、何度か寝返り
を打つ。フローリングの床が汚れている。唯一の光の源である窓も、薄いカーテンを閉め
切っていて、部屋はぼんやりと青白く、仄暗くあった。眠りたいのに目を閉じたくない。
忘れたいのに思考を停止したくない。
 今日一日だけは、ミルフィオーネの監視を潜り抜けて、この自分の部屋で眠ることを獄
寺に許された。いや、多分、獄寺も限界だったんだ。昨日はとうとうキャバッローネとの
交信が図れなかった。アルコバレーノともコンタクトをとっていない。
 明日はフル活動しよう。
 明日は。
 今日だけは。

「ごめん」

 誰に謝っているのかは気付かなかったが、自然とその言葉が部屋の空気に馴染んで、も
う一度口にしてみる。

「ごめん」

 静かに響いて、やがて音が消えた。天井が暗く染まる。思考が闇に飲み込まれる。




 暗転。







2007/07/13 十三日の金曜日記念。
      【説明しよう!:アルミナイフでは、月々十三日の金曜日が来るたびに、記
     念として暗い小説(死にネタ・ダークバリバリ!)を上げることを今決めた!】
      十三日の金曜日って、ときめきを感じませんか(ぇー)。
      一応十年後山本。この次の日にはいつものように、右腕の相棒として振る舞
     っているわけですが。タイトルの理由はベースが山ヒバだから。