※捏造十年後。 can't call it love 「何だあ、これは」 「チョコレイトケーキです」 それ位見れば分かる。スクアーロはぼやいた。 一人分のサイズにカットされた、元はホールケーキだったと思われるそれが、黒塗りの テーブルに目立つ白ざらの上で、ぴかぴかと光っていた。見るからに上品かつ高級で、上 にはさりげなく金粉がまぶしてある。 問題は、何故それをバジルが持ってきたか、という事だった。 スクアーロの胸中を察したバジルは、椅子に座りケーキを睨み付けているスクアーロに 言う。 「スクアーロ。今日が何日か覚えていますか?」 「あ゛ぁ? 馬鹿にしてんのか」 二月十四日に決まってるだろうが。 そこまで言って、はたとスクアーロは気付く。 「……ヴァレンタインの殺された日か」 「間違ってはおりませんが、はずれです。ボンゴレからのバレンタインプレゼントですよ」 それからバジルは、スクアーロへのケーキが入っていた箱を掲げて見せた。聞くところ によると、律儀なボンゴレ十代目は、ファミリー全員にこのケーキを配っているのだとい う。 そういうところが甘いんだ、思いながらスクアーロはじろじろとケーキを眺めている。 彼の密かな甘味好きを知っているバジルは、少しだけ笑みを浮かべた。「お前もここで食 べていくか?」とスクアーロが問い、「宜しいのならば」とバジルが返す。スクアーロが 立ち上がり二人分のフォークを取りに行く間に、バジルはそっとシャンパンをテーブルの 上に置いた。 戻ってきたスクアーロの右手には二本のフォークがあり、左手には当然のように二つグ ラスがある。シャンパンを見て、スクアーロは笑みを顔に刻んだ。 「う゛ぉぉい、また甘いの持ってきやがって」 「これを好んでいたようなので」 「まーなぁ。色が良い」 とっとと座れ。荒い口調のスクアーロに、素直にバジルは従う。低いテーブルとケーキ を挟んで向かい合わせになると、バジルも自分のケーキを箱から取り出した。 それを見つつ、思いだしたようにスクアーロが尋ねる。 「そういや、あの男には何を寄越したんだぁ?」 「あの男、とは」 「決まってんだろぉ。九代目の息子だ」血よりも綺麗に透き通ったそれをグラスに注ぎな がら、スクアーロはちらりとバジルを見る。十年前、ボンゴレリングの件の決着がついて から、気軽にボスと呼ぶわけにもいかなくなった。その男は、甘いものが嫌いだったはず だとスクアーロの記憶が言う。 バジルもグラスにシャンパンを注がれながら、頷いた。 「ザンザスには特別にお酒を送られていました。チョコレイトが嫌いだとレヴィ・ア・タ ンが言っていたので」 「そういやあ、何でチョコレイトなんだ?」 次々と向けられる疑問にも、バジルは呆れることなく答えた。この男との会話は質問と 回答の応酬で成り立っているところが殆どだったし、何よりバジルはこの簡潔なやりとり が好きだからだ。ボンゴレ十代目と顔をつきあわせるのも良い、幹部と会議を開くのも良 い、けれど時には、こんな口を動かすだけの会話がしたくなる。 「日本の風習なのだそうです。バレンタインにはチョコレイトを送るのが定番なのだとか」 「ほお。悪くねぇな」 適当な返事をしながら、スクアーロは嬉々としてケーキを口に運んだ。さりげなくそん なスクアーロを見ながら、バジルはシャンパンを口に含む。酸味をわずかに上回る甘味が 口の中に満ち、舌を口の中で泳がせる気持ちで、それを味わった。 スクアーロも機嫌がいいのか、テンポ良くケーキを口に運んでいた。みるみる原型を止 めなくしているそれを見て、この男に何かを味わいながら食べるのは無理だな、とバジル は思う。 「甘ぇ」 スクアーロが唇の端のチョコレイトを舌ですくった。笑う。 「旨ぇ」 「ボンゴレが選んだのですから、もちろんです」 バジルもフォークに手を伸ばす。銀の爪が、チョコレイトに沈んだ。 07/02/09 恋愛的要素がほとんど無いやりとりが好きです。が、でもあくまでもスクバジ スクなんだ。この後バジルは「食べるのが遅いぞぉ」とかスクに言われて、「じ ゃあ食べますか」とか言うんだ。正反対の食べ方でも、結局食べ終わるスピード は一緒なんだ。萌。