セルリアンブルー 炭酸色の空に、レモンのような太陽が上がった。 並盛中のプールはそれとなく広い。 管理の名義はいつも風紀委員のものだが、掃除やその他諸々の管理と呼べることは、大 体一般の生徒がかり出されていた。 ぺたぺたと、水のないプールに誰かが裸足で入り込む。プールの栓が全開になっている ことを確かめて、プールサイドで待機している友人に声をかけた。呼ばれた友人は、頷い てホースの先を人物に投げる。綺麗に受け止めると、ついでにブラシも持ってこいよと人 物が言った。何で俺が、とぼやきながら別の人物が下りてくる。文句を言うな、と拳を振 るうまた別の少年が、じゃあお前も下りろよと促され、確かにと頷いて飛び降りた。着地 に失敗して頭を打つ。それを見て、また誰かが面倒臭そうにする。 一番最初に下りていた少年が、見事に頭を打ったのを見て声を上げて笑った。早くしろ、 と二番目に下りてきた少年が苛立たしそうにデッキブラシを投げる。受け止め損ねてした たかに足をぶつけた少年は、それでもまだ笑いながらブラシを拾い上げた。ホースの先か ら少しだけこぼれた水が、光を受けてきらきらと光る。 「はい蛇口捻ってー!!」 ばしゅううう! 山本が握っていたホースの口から、一気に水があふれ出した。綺麗な放射線を描くそれ を、あたりにまんべんなく散らしていく。きらっと目の端で虹が光った。 今日は皆プール掃除に呼び出され、そのため、ほとんど誰もが体操服を着用していた。 山本は下のジャージを膝下まで捲り上げ、裸足でプールの中を走り回っている。ホースを 操るたびに、半袖の端から、健康的な筋肉が覗いた。水が散る様が面白くて、調子に乗っ て隅から隅へと水を流していく。同じようにジャージを身につけた獄寺がデッキブラシを 抱え下りてくるが、その足下にもカルキの波が押し寄せた。 「ばっか、やり過ぎだ野球バカ!!」 少し水を被った獄寺が不満を叫ぶ。ぎゃははと笑うと、山本はホースを獄寺に向けた。 更にホースの口を親指で潰し、シャワー状に水を振りまく。 「あ、てめ!」 「あははははは!!」 腹の底から山本が笑う。獄寺は山本を睨み付け、自分の気よりも短い導火線を持ったそ れを遠慮無く投げた。水よりも綺麗な弧を描いて、ダイナマイトが空を飛ぶ。 「果てろ!!」 「わー、獄寺君!」 「おーっと」 すかさず山本がホースを向け、水が放たれる。筒状のそれは熱を失うと、水の張ってい ないプールの底へぶつかった。 「あっはっは! あぶねーあぶねー」 「てめえ、野球バカ!」 武器を使うことも忘れたのか、ムキになって獄寺が山本に殴りかかる。しかしそれを避 けようと山本が立ち位置を動くほどに、山本の手から放たれる水が無責任に振りまかれた。 プールサイドに立っていた綱吉にも水が飛び、慌てて顔を腕でかばう。夏の気温と汗がじ っとりと混ざり合い、そこに無遠慮に飛び込んできた水は、心地よい冷たさだった。ただ し、些か心臓に悪い。体操服も無駄に濡れる。 「ちょ、ちょっと! 二人とも!」 「む、タコヘッド! 極限燃えるな!!」 綱吉の声を完全に無視して(否、元から聞こえていないのだろう)、未だに一方的な殴 り合いを続ける二人の間に、第三の拳が飛び込んだ。苛立たしそうに獄寺が振るった右足 を、山本が避け笹川が左腕で受ける。 「てめえはすっこんでろ!!」 「極限つまらんことを言うな! 俺も混ぜろ!」 「はっははは、いいじゃん獄寺!」 「あああ、ちょっとみんな!!」 慌てて綱吉が制止にかかろうとするが、その直前に、背後から強い怒気を感じておそる おそる振り向いた。 「……君たち、やる気あるの」 ジャージの袖をまくり、デッキブラシを手にした雲雀が、氷のような目でツナを見る。 「……あ、あはは」 日はまだ南中したばかりであった。 夏の空は、青い。 2007/04/18 二千ヒットフリー小説でした。いまは持って帰っちゃだめよ。 青と白のコントラストが大好きなのですが、なかなかうまく表現できません。 難しい。セルリアンブルーは水色がかった青です(この文字色)。もっとくど いぐらい青いのが夏っぽいんだろうけど。セルリアンの色が好き。ジャージを 最大限にプッシュしています。 そして書いている今日は、春の中でもっとも気温が低くなったそうです。気 温だけだと二月。 寒っ。